足立の昔がたり
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すがたも衰おとろえて、心の苦しさが、他の人の目にもわかるようになっていった。ある日、胸むねの苦しみを自分の両親に打ち明けるために実家へと向かっていた娘は、ふと大きな沼ぬまのほとりで足を止めた。そして、どうにもならない思いを抱かかえたまま、身を投げてしまった。娘がいなくなったことに気づいて、人びとはあちらこちらを探さがしまわったが、そのすがたを見つけることは、とうとうできなかった。ところが―それからというもの、長雨が降ふると、沼には決まって小山のような高い波が立って、荒あれ狂くるうようになったのだ。この様子を見て両方の村人たちは、「娘さんは、この沼の主になったのにちがいない」というようになった。99

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