足立の昔がたり
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11そして一年のたいへんな工事のすえ、ようやく千住大橋は完かんせい成したけれど、その後も、川を往ゆき来きする舟が橋の近くでひっくり返ったり、橋きょうきゃく脚にぶつかるという事故がよくおこった。これは川の主の大カメのしわざと考えられ、人びとは、この橋の下を「亀かめのま」や「亀のます」と呼よんで恐おそれたという話だ。 ところで、この大カメの正体については、こんなふうに伝つたえられている。 日にっこうとうしょうぐう光東照宮の「眠ねむり猫ねこ」で有名な彫ちょうこく刻の名人である左ひだり甚じんごろう五郎が、あるとき、隅田川を渡わたろうとして、渡し舟を待っていた。そのとき、たいくつしのぎに、砂すなの上に大きなカメの絵を描かいた。やがて舟が来ると、左甚五郎はその絵を消さずに、舟に乗り込んで行ってしまった。その後、砂の上に描かれたカメが動き出し、川の中に入っていって、主になったのだそうだ。ちょっと迷めいわく惑な話だね。橋を作るにあたって、仙せんだい台の伊だて達政まさむね宗から、とてもくさりにくい「犬いぬ槇まき」という木が送られたといういい伝えがある。このお話のころは、現げんざい在の千住大橋までが荒川、それより下かりゅういき流域が隅田川と区くべつ別されていたよ。

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