足立の昔がたり
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ある晩ばん、そのそば屋さんに美しい娘むすめがやってきて、おそばを食べていった。今までだれも見たことのない娘だ。よほど気にいったのか、娘は次の日も、その次の日もやって来る。「毎晩やって来る、あの美しい娘は、どこのだれだろう」不思議に思ったそば屋の主人が、ある晩、その娘の後ろをこっそりつけてみた。すると娘は、急ぎ足で金蔵寺の前まで来ると、すーっと、えんま堂どうの中に吸すい込こまれて、消えてしまった。「なんと、あの娘はえんまさまだったのか」それから金蔵寺のえんまさまは、おそばが大だいこうぶつ好物ということになり、祈きがん願してご利りやく益をいただいた人は、お礼におそばを供そなえるようになったということだ。 おそばを供えるならわしは、昭和十五年(一九四〇)ころまで続いていた。斎さいにち日(精しょうじん進の※日)の十六日になると、近所のそば屋さんから、たくさんのおそばが届とどけられたそうだよ。 ※精進↓体と心をきれいにしてつつしむこと。※本尊↓その寺で、一番大切な仏ほとけさまのこと。※旅篭↓旅人がとまる宿のこと。24

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