足立の昔がたり
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28そう思って空を見上げると、本物の月が光っている。再ふたたび大松の枝に目をむけると、ふたつめの月のような光は、しだいに木の上の方にのぼったり、下にくだったりしていた。やがて、ふっと消えて、あたりは暗やみに戻もどる。この不ふしぎ思議な大松のお月さまは、近所の人びとの評ひょうばん判になった。「あれは、きっと人ひとだま魂だ」「いや、ホタルが群むれているんだ」さまざまな意見が飛とびかったけれど、正体はわからないままだった。さて、月がひときわきれいな夜―いつものように、ふたつめの月があらわれたかと思うと、大松の上へ上へとのぼりはじめた。十人ほどの人が集まり、その様子をながめる中、やがて光は木のてっぺんにたどりつき、しばらくの間、じっとしていた。かと思うと、今度はするするとくだってくる。その光が落ちてきたら一大事とばかり、みんなが逃にげよ

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