足立の昔がたり
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サルはお湯をわかし、そのままタライに注ぎ込こんで、そこに赤ちゃんをつけた。けれど水でお湯をうめることを、すっかり忘わすれていたのだ。熱ねっとう湯の中に入れられた赤ちゃんは、今までよりもさらに激はげしく泣き、そのうち、泣くこともできなくなって、そのままぐったりと息いき絶たえてしまった。家の人たちによく思われようとしたことが、まったく逆ぎゃくの結けっか果になってしまったのだ。やがて帰ってきた家の人たちは、その様子を見ておどろいた。サルは、どうしたらよいのかわからず、ただオロオロするばかり。家の人たちは、「この憎にくたらしいサルめ! いっそ赤ちゃんのように殺ころしてやろう」と思ったけれど―ふと、こう思い直した。「サルだって、わざとやったのではない。あやまって、こうした結果になってしまったのだ」大きな悲しみをこらえて、家の人はサルを許ゆるしてやることにした。それだけにサルは、「とりかえしのつかないことをしてしまった。今までかわいがってくれたご主人さまに申しわけない」と、悔くやんだ。そして、その罪つみを詫わびるためにごはんを食べなくなり、赤ちゃんの墓はかも守りをしながら、とうとう自らの命を絶たってしまったのだ。54

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